’87東映ニューヤング路線って?

1987年2月14日に公開された、南野陽子主演の映画『スケバン刑事』。
そのチラシの裏面には、こんな宣伝コピーが記されています。
「今、’87東映ニューヤング路線の先陣を切って 2月14日(土)全国一斉大公開!!」
さて、「東映ニューヤング路線」とは何だったのでしょうか。
東映といえば、かつては時代劇から任侠映画、実録ヤクザ映画、アクション映画まで、
男性的で泥臭いエネルギーを持った作品を数多く送り出してきた映画会社です。
一方で1980年代になると、映画館の中心となる観客も大きく変化していました。
そんななか東映が力を入れ始めたのが、中高生を中心とする若い世代を狙った映画でした。
その大きなきっかけとなったのが、1985年に公開されヒットした
『ビー・バップ・ハイスクール』です。
人気漫画を原作に、仲村トオルと清水宏次朗を主演に迎えた作品はシリーズ化され、
若い観客を東映の映画館へ呼び込むことに成功しました。
この手応えを背景に、1987年の東映は若者向け作品を続けて投入します。
当時の資料では、東映がそれまで幼児・児童層や成人向け作品には強い一方、
その中間にいる若い観客層を十分につかめていなかったという認識を持っていたことが伝えられています。
『ビー・バップ・ハイスクール』の成功は、
「東映でもヤングものができる」という自信につながりました。
そして、その1987年の「ニューヤング路線」の先陣として登場したのが
『スケバン刑事』でした。
『スケバン刑事』から始まる「ツッパリ三連打」
『スケバン刑事』は、和田慎二の漫画を原作とし、テレビシリーズで人気を集めた作品の劇場版です。
二代目・麻宮サキを演じた南野陽子を中心に、吉沢秋絵、相楽ハル子、そして三代目スケバン刑事の浅香唯まで登場。
テレビで親しまれていた若いスターたちを、そのままスクリーンの主役として押し出しました。
続く3月21日には、
『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲』
そして4月25日には、
『湘南爆走族』
が公開されます。
この3作品は当時、「ツッパリ三連打」とも呼ばれました。
『湘南爆走族』は、その「トリ」を務める作品として位置づけられていました。
1987年2月14日 『スケバン刑事』
↓
1987年3月21日 『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲』
↓
1987年4月25日 『湘南爆走族』
ほぼひと月ごとに、若者向け映画が東映系のスクリーンに登場したことになります。
『スケバン刑事』のチラシに書かれた「先陣を切って」という言葉は、文字どおり、この一連の作品のスタートを告げるものだったのでしょう。
スケバン、ツッパリ、暴走族
3作品を並べてみると、1987年という時代がよく見えてきます。
『スケバン刑事』はテレビドラマとアイドル、
『ビー・バップ・ハイスクール』は人気漫画とツッパリ高校生、
そして『湘南爆走族』は漫画・OVAで人気を得ていた暴走族の若者たち。
題材こそ違いますが、いずれも当時の中高生にすでに知られていた漫画やテレビなどの 人気コンテンツを映画へ持ち込み、同世代に近い若い俳優をスクリーンのスターとして 売り出すという共通点がありました。
『湘南爆走族』では、江口洋介が映画初主演。
織田裕二や清水美砂にとってもデビュー作となりました。
東映には彼らを『ビー・バップ・ハイスクール』の仲村トオルや清水宏次朗に続く、
新しいスターとして育てようという狙いがあったとされています。
今から振り返れば、後に日本映画やテレビドラマを代表する俳優となる江口洋介と織田裕二が、 この「ニューヤング路線」の中から登場したことも興味深いところです。
夏には「シャコタン」と「応援団」へ
ニューヤング路線は春だけでは終わりませんでした。
1987年8月15日には、
『シャコタン☆ブギ』
『名門!多古西応援団』
の二本立てが公開されます。
『シャコタン☆ブギ』は楠みちはるの人気漫画を原作とする青春映画で、 春の「ツッパリ三連打」に続くヤング路線として、 『名門!多古西応援団』とともに製作が発表されました。
「ニューヤング路線」が残したもの
興味深いのは、東映がこの路線をさらに拡大しようとしていたことです。
春の「ツッパリ三連打」と、夏の『シャコタン☆ブギ』『名門!多古西応援団』の成績を見ながら、
翌1988年には『湘南爆走族2』『スケバン刑事2』『ビー・バップ・ハイスクール4』などを
展開する構想があったことも当時の資料から確認できます。
『湘南爆走族』の続編は実現しませんでしたが、
『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』や
『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎狂騒曲』などへ、
その流れは引き継がれていきました。
「東映ニューヤング路線」という名称そのものは、
後世まで広く知られた映画史上の呼称とはいえません。
しかし、当時のチラシに残された
「’87東映ニューヤング路線の先陣を切って」
という一文から作品をたどっていくと、
1980年代後半の東映が、新しい世代の観客とスターを求めて
試行錯誤していた姿が浮かび上がってきます。
テレビで人気のアイドルを映画へ。
人気漫画の主人公を実写のスターへ。
そして映画から、次の若手俳優を世に送り出す。
『スケバン刑事』のチラシに何気なく印刷された「ニューヤング路線」という言葉は、
そんな1987年の東映映画の空気を封じ込めた、
いまではちょっと懐古的な宣伝コピーだったのかもしれません。
’87東映ニューヤング路線 関連作品
- 1987年2月14日
- 『スケバン刑事』
- 1987年3月21日
- 『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎行進曲』
- 1987年4月25日
- 『湘南爆走族』
- 1987年8月15日
-
『シャコタン☆ブギ』
『名門!多古西応援団』
*参考資料:『キネマ旬報』1987年3月下旬号 ほか