赤い影（1973）

Don’t Look Now
日本公開日　1983年8月19日

日本では地味な存在ですが、イギリスやアメリカのホラー／ミステリーやカルト映画ファンの間では、評価も人気も高い作品です。

愛する娘を亡くした中年夫婦が仕事で訪れたベネチアで、不思議な老姉妹と出会います。
その盲目の妹には霊感があり、「娘さんは幸せにしているから安心して」と妻に伝えます。
妻はその言葉に心を傾けていきますが、夫のほうは全く信じようとはしません。しかし、亡くなった娘が赤いレインコートを着ていた記憶からか、赤いコートの小柄な姿が彼の視界に何度も現れるようになります。

ドナルド・サザーランドが演じる夫は、未来を垣間見る能力があるのですが、本人はそれに気づいていません。
この映画は現在と未来の出来事が前後して展開され、観る者を巧妙に惑わせます。
淀んだ空気の寒々しいベネチアの風景と不穏な雰囲気が続くなか、親密だった夫婦の間に溝が広がっていきます。

私が初めて観たとき（大学生の頃：文芸坐で）は、混乱と驚きでよくわからなかった部分がありましたが、2回目の鑑賞では時系列の逆転が理解できて、物語がスッキリ頭に入ってきました。
まだ家庭でビデオを繰り返し観ることが難しかった時代に、こういった構成を取り入れるのは、ニコラス・ローグ監督の意地の悪さか、大胆さだったのでしょうか。

ぜひ、まずは一通り観てから、もう一度最初から観てみてください。
なお、この作品は私の好きな監督たちにも多くの影響を与えています。たとえばクローネンバーグの『ブルード』、ラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』、そしてクリストファー・ノーランなどもその影響を受けていると伝えられています。