疑惑
劇場公開日 1982年9月18日
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1982年公開の『疑惑』は、松本清張の原作を野村芳太郎監督が映画化した社会派サスペンス。
桃井かおりと岩下志麻という、強烈な個性を持つ二人の女優の競演が大きな見どころです。
物語は、富山県で起きた自動車の海中転落事故から始まります。運転していた若い妻・鬼塚球磨子(桃井かおり)は助かったものの、同乗していた資産家の夫は死亡。夫に多額の生命保険がかけられていたことから、球磨子には保険金目当ての殺人疑惑が向けられます。
過去の経歴や奔放な言動をマスコミに暴き立てられ、世間から「悪女」の烙印を押される球磨子。そんな彼女の弁護を引き受けるのが、岩下志麻演じる弁護士・佐原律子です。
桃井かおりが演じる球磨子は、ふてぶてしく、挑発的で、どこか投げやり。それでいて、ふとした瞬間に傷つきやすさや孤独をのぞかせます。一方、岩下志麻の律子は、冷静で理知的、隙のない佇まいを見せながらも、球磨子と向き合ううちに感情を揺さぶられていきます。
世間が作り上げた「悪女」というイメージと、その人物の本当の姿には、いったいどれほどのギャップがあるのか。映画を観ながら、そんなことを考えさせられました。
そして、何といっても忘れられないのが、裁判が終わった後のクラブでの場面です。
それまで抑えていた感情をぶつけ合うように、激しい本音の言い争いを始める二人。
やがて球磨子が、律子の純白のスーツの胸元に赤ワインを浴びせかけます。白い布地が鮮やかな赤に染まっていく。
しかし、ワインをかけられても、律子は毅然として動じません。次の瞬間、グラスに残ったワインを、球磨子の顔めがけて勢いよくぶっかける!
桃井かおりと岩下志麻。二人の女優の個性が真正面から激突する、映画史に残したいほど強烈な場面です。
ここで少し、個人的な話を。
私と同じ世代のゲイにとって、まるで「必須単位」のように観ておくべきとされる日本映画が3本あります。
『Wの悲劇』『吉原炎上』、そして、この『疑惑』です。
この3作品には、どこか共通する魅力があります。
そこに登場するのは、男の前で美しく振る舞い、従順でか弱い存在として描かれる女性たちではありません。
自分の欲望や意地を抱え、時には醜態をさらしながらも、しぶとく生き抜いていく女性たち。そして、そんな女性同士が激しくぶつかり合う姿が、実に生々しく描かれています。
男性優位の社会であっても、女性たちは決して男たちの思惑どおりに生きているわけではない。
男たちには見えていないところで、女たちは女たちなりの戦いを繰り広げているのです。
単純で、どこか大雑把な男たちの価値観に違和感を抱いてきた自分にとって、そんな女性たちの姿には、妙に共感してしまうものがありました。
もちろん、ゲイだから誰もがそう感じるというわけではないはず。
それでも、少なくとも私の周囲では、こうした女性たちの生きざまを描いた映画に、理屈を超えて惹きつけられる人が少なくなかったように思います。
『疑惑』は、殺人事件の真相を追うサスペンスでありながら、桃井かおりと岩下志麻という二人の女優が、互いのプライドも感情もむき出しにしてぶつかり合う映画でもあります。
あの純白のスーツに飛び散った赤ワインは、単なる派手な演出ではなく、二人の女性がそれぞれの生き方を譲らずにぶつかり合った、その瞬間を象徴するものだったように思います。
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