アイズ ワイド シャット
Eyes Wide Shut
日本劇場公開日 1999年7月31日
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スタンリー・キューブリックの遺作となった『アイズ ワイド シャット』。
撮影当時、実生活でも夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンの共演、さらに『フルメタル・ジャケット』以来12年ぶりとなるキューブリックの新作ということで、公開前から大きな期待を集めていました。
しかしキューブリックは完成直後の1999年3月に急逝。結果として、これが最後の作品となってしまいました。
物語は、妻から過去に抱いた性的な欲望を告白された医師ビルが、嫉妬と動揺を抱えたまま夜の街をさまよい、やがて仮面をつけた男女が集う秘密の儀式へと迷い込んでいくというもの。
公開当時は、実生活でも夫婦だったトムとニコールの濃厚なラブシーンが見られるのではないか、という憶測というか期待というか、そんな話題が先行していた記憶があります。
そしてもうひとつ注目されたのが、社会的地位のある人々が集う秘密の乱交パーティーというセンセーショナルな設定でした。
ところが期待された二人の濃厚なシーンはなく、秘密のパーティーに潜り込んだビルも、正体がばれて「服を脱げ」と迫られながら、なかなか脱がない。脱げるいい体してるのに、なんでやねん!と思ったものでした。
この映画を観て僕が感じたのは、夫婦であっても相手の欲望や心の奥底まで完全に知ることはできず、また、知ったからといって必ずしも幸せになれるわけではない、ということでした。
相手の告白を受け止められるだけの覚悟がないのなら、夫婦だからといって自分の欲望をすべて明かすことが、必ずしも二人のためになるとは限らない。そんなことを描いているように思えました。
その点では、善良だけれど性に対してどこか平凡でうろたえてばかりいるトムよりも、日常生活の中に自分の欲望を当たり前のように同居させているニコールのほうが、スクリーンでは圧倒的に魅力的に映っていました。
冒頭で見せる全裸の後ろ姿も、その美しいプロポーションに思わず息をのみます。
そして秘密のパーティーに集められた女性たちもまた、ニコールを思わせるようなモデル体型の女性ばかり。
このあたりから、ビルが目撃しているものは現実なのか、それとも妻への嫉妬と性的な妄想がつくり出した夢なのか、境界が曖昧になっていくようにも感じられました。
後年になって、この映画には秘密結社イルミナティを想起させるシンボルが随所に隠され、あの秘密のパーティーもそうした組織の会合を描いたものではないか、という解釈があることを知りました。
そんな情報を知ってから観直すと、また違った面白さがあります。
街の開業医として暮らす平凡な日常と、名士たちが秘密を共有しながら生きているもうひとつの日常。
同じ街の中に二つの世界が重なって存在し、善良でその存在すら知らなかった男が、ある夜突然、その境界線を越えてしまう。そう考えると『アイズ・ワイド・シャット』は、夜のニューヨークを舞台にした奇妙なアドベンチャー映画のようにも思えてきます。
そして冒頭とエンドタイトルを飾るドミートリイ・ショスタコーヴィチの「ワルツ第2番(Waltz No. 2)」。
一度聴いたら耳から離れない旋律には、優雅さの中にどこか秘密めいた欲望を感じさせるものがあります。なんておしゃれな選曲なんだろうと感心したものでした。
✎ 日本語字幕 翻訳者:菊地浩司氏
▼ Tom Cruise :: Eyes Wide Shut – Official Trailer [1999] HD|Photoland