フルメタル・ジャケット
Full Metal Jacket
日本公開日 1988年3月19日
冒頭、のどかなカントリーミュージックが流れる中、若者たちが無表情のまま丸坊主にされていくシーンが次々と映ります。シャバを捨てて軍隊に入る覚悟が一気に伝わってくる見せ方ですね。
この映画は二部構成になっていて、前半ではベトナム戦争中のアメリカ海兵隊に入隊した若者たちの厳しい訓練が描かれます。
鬼教官の罵声が飛び交う中、列を組んで走る時の卑猥な歌は、まるで知性を削ぎ落としていくような洗脳効果。
そして落ちこぼれのレナードが連帯責任で同僚からいじめられるシーンは本当に辛いものがありました。
追い詰められながらも射撃の才能を認められたレナードですが、卒業式の日に教官を射殺し、その後自ら命を絶ってしまいます。キューブリックの「狂気に取り憑かれた人間の顔の撮り方」、本当に怖いです。
後半では、主人公のジョーカー(マシュー・モディーン)がベトナム戦地へ送られます。彼は初めはナイーブで人間味があるように見えますが、戦争を通じて彼も次第に変わり果て、やはり「製造された兵士」であることが明らかになっていくのが怖いです。
マシュー・モディーンは、アラン・パーカー監督の「バーディ」で繊細な青年を見事に演じていたので、どうしてもそのイメージを引きずってしまいます。彼もここで心が壊れてしまうんじゃないかとハラハラしてしまいました。
クライマックスの市街戦では、イデオロギーや正義といった概念はどこかに消え、目の前の敵を倒さなければならないという戦争の現実がリアルに描かれます。
しかも狙撃してきたのが少女だった、という事実が衝撃的。ジョーカーは躊躇しながらも、彼女に止めを刺します。そしてラストシーンでは、兵士たちが「ミッキーマウス・クラブ」の歌を歌い始めます。自分たちはアメリカで生まれて育った子供達であることを再確認するかのように。
「地獄の黙示録」と並ぶ、ベトナム戦争の狂気を描いた傑作だと思います。
*舞台はベトナムですが、キューブリックはイギリスから離れたくなかったため、すべての撮影をイギリス国内で行いました。
*この作品は初公開時モノラル音声で、そのクオリティが驚異的なものだったそうです。現在ソフト化されているのは5.1chサラウンドになっています。